書籍の紹介
書籍名 | 経営の教科書 — 社長が押さえておくべき30の基礎科目 |
著者名 | 新 将命 |
出版年 | 2009年 |
出版社 | ダイヤモンド社 |
書籍の概要
シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンドジョンソンといったグローバル・エクセレント・カンパニーで社長職を歴任された新将命先生が、経営者に必要な「経営の原理原則」を30の項目に整理してまとめた一冊です。
実務に根差した視点で、リーダーに求められる資質を一つ一つ丁寧に解説されています。
この書籍を手に取った理由
きっかけは、新先生の研修に参加したことでした。
経営者としての圧倒的な実績に裏打ちされた威厳を持ちながらも、若い受講生にも謙虚に、そしてユーモアを交えながら真摯に向き合う姿勢に惹かれました。
「この人からもっと学びたい」と思い、研修後すぐに新先生の著書を数冊購入。その中でも、特に心に残ったのが本書です。
書籍からの学び
この書籍は、リーダーシップに関しての示唆が多いことが特徴ですが、その中でも特に印象に残ったのが次の3つです。
- トンネルの先の光を示すこと
- 極度に高い倫理性を持つこと
- 人間関係力を持つこと
書籍に書いてあることを全て実践することは難しいので、私はまずこの3つを優先して意識しています。
トンネルの先の光
あなたがトンネルのなかにいると想像してほしい。
たとえ出口まで道のりが何キロもあったとしても、はるか彼方に一条の光が差してさえいれば、人はそれに向かって進むことができる。
ところが、たとえ出口までの距離が一キロ足らずであっても、トンネルの先に光が見えなければ前に進む気力は湧いてこない。
私は過去に炎上プロジェクトに携わった経験がありますが、そのプロジェクトで何が辛かったかと言えば、先が見えないことでした。
「このトラブルはいつ終わるのか(っていうか、終わるのだろうか・・・)」
そんな不安で頭がいっぱいになり、考えれば考えるほど気持ちは暗くなる。
だから、余計なことを考えるのをやめて、ただ目の前のタスクをこなす日々。
まさに「光のないトンネル」という表現がぴったりで、これは結構つらい経験でした。
だからこそ、リーダーには光を示す役割があるのだと、痛感しています。
「今は辛いけど、これを乗り越えれば報われる」
そう思うことができれば、たとえ残業が続いて体力的に厳しかったとしても、モチベーションを維持できるように思います。
では、どうすれば光を示せるのか。
新先生は、光とは「方向性」であり、方向性とは「理念+目標+戦略」だと述べられています。
そして、その方向性は、メンバーにワクワク感を提供しなければならない、とも仰っています。
メンバーがその方向性に向かいたいと思わなければ、それは光にはならないとのことでした。
「トンネルの先の光」という表現はとても分かりやすくて腹落ちしましたが、上記のように具体化すると、光を示すことの難しさを感じます。
単純に売上や利益を目標に掲げても、それは光にはならない(ワクワク感はない)と思います。
私も職場でリーダーとして方向性を示すことが求められていますが、チーム(組織)が大きくなるほど方向性を示す難易度は高くなります。
それでも、リーダーとして、どんな規模のチームでも「光を示せる存在」になりたいと思っています。
私にとって「トンネルの先の光」は、リーダーシップを語る上でとても大切にしている考え方です。
極度に高い倫理性
新先生があるグローバル企業の会長に「経営者にとっての資質」を尋ねたときの回答を引用します。
「ひとつは、平均を上回る知性。もうひとつは、極度に高い倫理性である」
いわゆる頭のよさに関していえば、天才である必要もなければ秀才である必要もない、ほどほどでもかまわない。平均を上回る程度でよい。
しかし倫理性は違う。経営者であれば、人より並外れて高い倫理性を持たねばならない — 会長はそう答えたのである。
知性はほどほどでよい。しかし、倫理性はただ高いだけでは不十分で、「極度に」高くなければいけない、というのが印象的でした。
リーダーになるほど、周囲に注意をしてくれる人は減ります。
だからこそ、リーダーは自らを律し続ける必要があるのだと、改めて感じました。
私は以前に会社の交通費精算を誤ったことがあります。
たった数百円の誤りでしたので、一瞬だけ「気づかないフリをしようか」とも思いました。
でも、そのときに「極度に高い倫理性」という本書からの学びが思い浮かび、それが返金の手続きを始めるきっかけとなりました。
あのときに誤りを見過ごしていたら、同じような誤りがあってもまた見過ごしてしまうと思います。
メンバーが同じ誤りをしても、その誤りを見過ごした自分には注意することができません。
そうやって誤りが繰り返されるのかと思うと、小さな誤りでも見過ごすべきではない!と思いました。
世の中でニュースになるような大きな不祥事も、最初は「些細なズルやミス」がきっかけだったことが多いと聞いたことがあります。
だからこそ、リーダーは日々の行動に気をつける必要があるのだと思います。
また、新先生は「リーダーは常に見られている」ということも仰っていました。
リーダーの言動は、リーダー本人が思っている以上にメンバーに見られているそうです。
もし私が交通費をごまかしていたことがメンバーに知られたら、たとえ金額が数百円だったとしても、そのことで失う信頼は数百円どころの話ではなかったと思います。
リーダーは常に見られている。この意識を忘れずに、日々の行動を律していきたいと考えています。
人間関係力
リーダーとしての成功のカギを握るのは人間関係力だと新先生は説いています。
新先生が新卒で入社した会社には、優秀で頭脳明晰な先輩たちがいらっしゃったそうですが、その先輩たちを例に挙げながら、次のように述べられています。
仕事のスキル、論理性、知性などの点で、彼らの右に出る者はいなかった。
だが、彼らには根本的な問題があった。「人間関係力」が欠けていたのだ。
上司に対しても恐れず臆せず自分の意見を主張し、相手を論破することができる。
だが、まわりの人をして「あの人となら一緒に仕事をしたい」「あの人にならまた会いたい」「あの人についていきたい」と思わせるような人間的魅力を、彼らは持っていなかったのである。
私の周りにも思い当たる人はいます。
そういう人と一緒に働けば、成果は出るかもしれませんけど、楽しくなさそうです。
仕事なんだから、成果さえ出ればよいのかもしれません。
でも私は、仕事は楽しめる方が良いと思います。
平日の大半を仕事で費やすのだから、辛くて退屈な時間を過ごしたくありません。
では、どうすれば楽しく過ごせるのか。
私は、人間関係力が「楽しく仕事をするために必要なスキル」として理解しました。
なぜなら、新先生が「人間関係力を高めるための行動」として紹介している「丁褒感微名(テイホウカンビメイ)」を実践すれば、自ずと仕事を楽しめるチームになるのではないかと思うからです。
その「丁褒感微名(テイホウカンビメイ)」とは、次の5つのシンプルな行動を指しています。
- 丁寧に接する
- 褒める
- 感謝する
- 微笑む
- 名前を呼ぶ
この5つは、どれも決して特別な行動ではありません。
しかし、自分の記憶を振り返ってみても、上司から褒められたり、感謝の言葉をかけられた経験は、そう多くはないと感じます。
だからこそ、この5つの行動は、受け手の心にしっかりと残るのだと思います。
私自身の経験でいうと、たとえば会議で発表したときに「声がいいですね」とか、「資料のデザインが綺麗ですね」といった何気なく褒められたことを、なぜかよく覚えています。
会話中に相手が微笑みながら聞いてくれるだけで、自然と自分も笑顔になり、話しやすくなります。
また、会話の中で自分の名前が呼ばれると、相手に自分を認めたもらったような感覚になります。
これは「ネームコーリング効果」と呼ばれ、名前を呼ばれることで相手に好感を持ちやすくなるという心理があるそうですが、たしかに自分にも思い当たる節があります。
これらの5つの行動は、一つひとつは些細なことですが、これが当たり前に実践されているチームは、一緒に働いていて楽しいと感じるチームだと思います。
今はリモートワークの機会が増え、コミュニケーションの総量自体が減ってきています。
だからこそ、意識的に「丁褒感微名」を実践することが、これまで以上に大切なのだと実感しています。
こんな人におすすめ
この書籍は次のような人におすすめしたいと思います。
- チームを率いる立場になったけどリーダーシップに自身が持てない人
- 組織の方向性や戦略を示す難しさに直面している人
- 自分自身のリーダーとしてのあり方を見直したい人
まとめ
リーダーに必要な3つのこととして、「トンネルの先の光を示すこと」「極度に高い倫理性を持つこと」「人間関係力を高めること」を挙げました。
リーダーシップは、カリスマ性や特別な知性といった先天的な資質によるものではなく、日々の行動や姿勢を通じて発揮されるものだと思います。
だからこそ、日々の小さな行動と心がけを大切にしながら、リーダーとしての自分を少しずつ磨いていきたいと感じています。